STORY
装飾とファンタジーがつくる生活空間
紀元前10世紀~前1世紀のエトルリア美術をご存知でしょうか 。青銅器時代から鉄器時代への転換期、今のイタリア・トスカーナ地方の古代王朝です。それはローマが吸収する前のダイナミックで独創的な文化でした。移行期としての栄枯盛衰と他国との交流があったおかげで、統制された美しさというよりも現地の文化とギリシャ、オリエント美術が巧みに混ざりあいました。作家D. H. ロレンスは旅行記『エトルリアの遺跡』の中でこの土地にはもの柔らかさ、安らぎ、人に糧を与えるものがあると語っています。文明半ばまで神様が登場することはまれで、自分たちの生活を祝福するかのような生活シーンや躍動感あふれる動物、微笑みの美しい肖像がテラコッタの建築に描かれ刻まれました。遺跡から発見された金工品は装飾とも実用品とも判別しがたい美しさがあります。暮らしそのものを美しい形にした彼らはローマ人に都市建築を教えたのでした。
同じく青銅器時代に広がったケルト文化のドラゴンも大陸を移動し、龍頭の鋳造技術として日本へたどり着きました。装身具や金印の装飾などに施されたユニークないきものや渦模様からは、交易交流とともにファンタジーが人間に必要なものとしてデザインされていることがわかります。
和風の一歩手前の美
自然や異文化と混ざり合う優美さをリスペクト
一方、日本初の指輪も大陸からの輸入品でした。当時の役割はなんと「呪術」だったのですが、その後6世紀頃の飛鳥白鳳文化に至るまで日本は異国の美術を積極的に取り入れていました。大陸からもたらされたおおらかで優美な仏教美術は、朝鮮半島 中国 インド 中央アジア 西アジアの影響を受けていて、仏像に彫込まれる小物にはキリスト教由来のものもあります。
抑圧からの解放
エトルリア、ケルト、飛鳥白鳳美術の金工は輪郭線が流麗でしっかりしています。その品々をよく見ると異文化交流の開放感、何かを思う充実感、未知や未来に対する明るさがあります。水や木々や土が豊富にあった時代の工芸品でしたので、当時の都市の文明文化が大自然の中のごくごく小さなパーツであったことを想像させてくれます。他文化を取り入れたり都市と自然のあいだを行き来した人々が抱く夢は、これからもまた創造的な形で実現していくのではないでしょうか。
装飾美術 柔らかな金属工芸
このようにふりかえると現代の美術工芸は、いにしえの都の混沌とした曖昧と響きあっているようかのように思えてきます。高質な金属の中に受容的な柔らかさが受け継がれいるからでしょうか。
ななかずらの装飾は和風になる一歩手前の表現です。しなやかな動きを感じていただけるように、壮大で空想的な世界をデザインに取り入れています。それはかつてのアールヌーボー、アールデコ装飾のように、レトロ/アーバン/リゾートなど多様な生活様式に溶け込んでくれます。